「助産師の資格を持っているのに、なぜ看護師として働くの?」
そう聞かれるたびに、うまく答えられなかった時期がありました。
この記事では、私が助産師を辞めてキャリアチェンジを選んだ理由を、厚生労働省の公式データやキャリアパスモデルも交えながら正直にお伝えします。「助産師を続けるかどうか悩んでいる」という方に、何かひとつでも参考になれば嬉しいです。
せっかく助産師の資格を取ったのに辞めてもいいのかな…。周りからどう思われるかも気になります。
その葛藤、すごくわかります。私も「もったいない」と何度も言われました。でもデータを見て自分のキャリアを整理したら、決断する勇気が湧いてきましたよ。
1|まず知ってほしい:助産師になる3つのルート
助産師と看護師は、実はまったく異なる資格取得のルートがあります。まずここを整理することが、キャリアを考えるうえで大切な出発点になります。
| 取得ルート | 特徴・ポイント |
|---|---|
| ① 4年制大学(看護・助産統合) | 大学在学中に看護師・助産師の両資格を同時取得。看護師としての臨床経験がないまま助産師になるルート。 |
| ② 看護師取得 → 助産師専攻科・専門学校(1年) | 看護師として就職後、または卒業後すぐに助産師養成課程へ進む。実務経験の有無はルートによって異なる。 |
| ③ 看護師として就職 → 大学院(助産師コース) | 臨床経験を積んだ後に進学。助産師・看護師としての実践力を両立しやすい。 |
出典:厚生労働省「保健師助産師看護師法」および各養成課程の募集要項
私は①のルート、つまり大学の統合カリキュラムで看護師・助産師の両資格を同時取得しました。それ自体はラッキーだと思っていましたが、就職後にある「負い目」を感じるようになります。
2|新卒で助産師になって気づいた「看護師経験がない」という壁
学生時代の実習では、看護師としての基礎トレーニングも一応受けます。でも、実際に産科病棟で働き始めると、じわじわと感じるものがありました。
「私は、患者さんの全身状態をちゃんと見られているのだろうか?」
産科は母子ともに比較的健康な方が多いとはいえ、ハイリスク妊婦や合併症のある方への対応では、全身管理の知識がどうしても問われます。看護師として急性期や内科を経験した先輩たちが持つ「引き出し」を、自分はまだ持っていないと感じていました。
また、転職活動を始めたときに現実を突きつけられました。
「産科での助産師経験は、看護師としての採用では評価できません」
ある病院の採用担当者に実際に言われた言葉です。助産師資格は看護師資格を前提に成り立っているにもかかわらず、産科以外の職場では「看護師としての臨床経験ゼロ」と見なされてしまう。これは、特に新卒から助産師になったルート(①)の方が直面しやすい現実です。
え、助産師って看護師資格も持っているのに、看護師として評価されないんですか?
そうなんです。資格は持っていても「臨床経験」としてはカウントされにくい。これは知らずに新卒で助産師になると、後からじわじわ効いてくる現実です。
3|データで見る:看護師と助産師の求人数・倍率の違い
「助産師のままでいい」か「看護師として転職先の幅を広げるか」を考えるとき、まずは客観的なデータを見てほしいと思います。
就業者数の比較
| 指標 | 看護師 | 助産師 | 差 |
|---|---|---|---|
| 就業者数(令和6年末時点) | 約136万人 | 38,721人(約3.9万人) | 約35倍 |
| 主な就業先 | 病院・クリニック・訪問看護・介護・企業・行政・学校 など | 病院(産科)・助産所・一部クリニック中心 | — |
| 部署異動の可能性 | あり(科を超えた異動が一般的) | 産科または産科混合病棟が中心 | — |
出典:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(令和7年7月29日公表)
求人倍率の参考データ
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 保健師・助産師・看護師(合算)の有効求人倍率 | 3.07倍(令和6年12月) | 厚生労働省「一般職業紹介状況」 |
| 助産師単独の求人倍率(参考) | 約0.99倍 | 業界調査(2016年は1.92倍 → 低下傾向) |
看護職全体としての求人倍率は3倍超と高水準ですが、助産師単独で見ると1倍前後にまで低下しているのが現実です。これは助産師の「採用枠そのものが少ない」ことを意味しています。
就業者数が35倍も違うのに、求人倍率もこんなに低いんですね…。
助産師は「需要がない」のではなく、「就職できる施設が産科に集中している」んです。一度産科以外に進みたくなったときに、選択肢の狭さがじわじわ効いてきます。
4|給与は助産師の方が高い:それでも私が看護師を選んだ理由
正直にお伝えしておくと、収入面では助産師のほうが看護師より高いのが現実です。
| 職種 | 平均年収 |
|---|---|
| 助産師 | 約580万円 |
| 看護師 | 約520万円 |
| 差 | 約60万円 |
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
助産師の年収内訳(参考)
「なぜ助産師の方が高いのか」は、年収の内訳を見ると一目瞭然です。
| 区分 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 基本給(月) | 約26〜30万円 | 看護師とほぼ同等 |
| 賞与(年) | 約90〜95万円 | 看護師とほぼ同等 |
| 夜勤手当 | 1回 1万〜1.5万円 | 看護師と同等 |
| 分娩介助手当 | 1件 2,000〜10,000円(病院によって異なる/1万円が比較的多い) | 助産師ならではの手当 |
| ベビーキャッチ手当 | 1件 数百〜数千円程度 | 分娩時にベビーをキャッチした際に加算される手当(病院により有無あり) |
| 待機手当・オンコール手当 | 1回 数千〜1万円 | 助産師は分娩待機が多く加算されやすい |
| 資格手当 | 月 5,000〜2万円 | 助産師資格に対する加算 |
出典:求人情報サイト各社の公開データ・看護系メディア記事を基にした参考値(病院・地域により差あり)
助産師の方が年収が高い「本当の理由」
- 基本給・賞与は看護師と大差ない
- 違いを生むのは**「分娩1件ごとの介助手当」と「ベビーキャッチ手当」**などの加算
- 分娩件数の多い病院ほど、月収・年収が大きく上がる
- 助産師は医師の指示なしに助産行為が可能(責任が重く、その分手当が手厚い)
つまり、助産師の年収の高さは「分娩件数」に支えられているといえます。逆に、分娩件数が減少傾向の病院や、混合病棟では、思ったほど手当がつかないケースもあります。
新卒1年目は看護師との差が小さい
意外なポイントですが、新卒助産師の初任給は看護師と大きな差はありません。理由は、1年目はまだ分娩介助件数が少なく、収入を押し上げる分娩手当が積み上がらないためです。経験を積むほど差が広がる仕組みになっています。
それでも私は看護師としてのキャリアを選びました。理由はシンプルで、「収入より、自分が広く成長できる環境」を優先したかったからです。年収は仕事を続けていれば取り戻せる可能性がありますが、20代・30代でしか得られない経験の幅は取り戻しにくい——そう判断しました。
年収下がるのは怖いです…。それでも変えてよかったと思いますか?
はい、私は変えてよかったです。一時的に年収は下がりましたが、看護師としての経験を積んだ後に「保健師」や「産業保健師」など、年収面でも追いつける道に進めました。
5|助産師の職場は「閉じた環境」になりがち
看護師と大きく違うのが、職場環境の閉じ方です。
看護師はローテーションや異動によって、多様な科・病棟・施設を経験する機会があります。一方、助産師は基本的に産科または産科混合病棟で働き続けます。
知っておきたい:産科混合病棟の現実
実は、近年は少子化の影響で**産科混合病棟(産科+他科の患者を同じ病棟でケア)**が増えています。
| 項目 | データ |
|---|---|
| 産科混合病棟の割合 | 約**59.6%**の病棟で混合運用 |
| 助産師が他科患者もケアしている割合 | 過半数の病棟で発生 |
出典:日本看護協会「産科混合病棟ユニットマネジメントガイド」
つまり、「異動なし=産科だけに集中できる」のではなく、混合病棟では他科患者のケアも求められることが多いのです。
ただし、混合病棟での勤務経験がある場合は、転職市場でも**「看護師経験」として一定評価されるケースがあります**。受け持っていた科の種類・患者層・ケア内容によって評価のされ方は変わるため、職務経歴書では「産科助産師」とまとめずに、他科ケアの経験を具体的に記載することが大切です。
逆に、混合病棟ではなく純粋な産科専属の助産師として勤務してきた場合は、看護師としての臨床経験が積みにくい——というのが、新卒助産師の方が直面しやすい現実です。
産科は助産師・看護師・医師の役割分担が明確な分、見えない壁があることもあります。縦社会の強さ、部署を超えた視点を持ちにくい環境……私はそれを息苦しく感じていた部分があります。
もちろん、産科の仕事に誇りと充実感を感じている助産師の先輩たちもたくさんいます。でも、私には「もっと幅広く患者さんの全身に関わる仕事がしたい」という気持ちが勝っていました。
6|助産師のキャリアパスモデル3選
「助産師を辞めたら負け」なんてことはまったくありません。むしろ、助産師という資格と経験は、思った以上に多くのキャリアに活かせます。以下に3つのパスをまとめました。
パス①|助産師としてのスペシャリストを目指す
| Step | 内容 |
|---|---|
| 1 | 産科病棟での分娩介助・母子ケアの経験を積む |
| 2 | アドバンス助産師(CLoCMiP®レベルⅢ認証)を目指す |
| 3 | 助産所での開業、または助産師外来・院内助産の担当 |
| 4 | 教育・管理職(助産師長、助産師教員など)へのキャリアチェンジ |
パス②|看護師としての幅を広げる(早めの動き出しが鍵)
| Step | 内容 |
|---|---|
| 1 | 産科以外の科へ異動・転職(急性期・外科・ICUなど全身管理を学ぶ) |
| 2 | 訪問看護・地域医療・産業保健など多様な現場を経験 |
| 3 | 保健師・専門看護師(CNS)・認定看護師資格の取得も選択肢 |
| 4 | ワーホリ・海外看護など国際的なキャリアも視野に |
パス③|助産師+看護師の両方を活かす複合キャリア
| Step | 内容 |
|---|---|
| 1 | 産科での経験を土台に、育児支援・母子保健の領域へ |
| 2 | 行政(保健センター・市区町村)での母子保健担当 |
| 3 | 企業での女性健康支援、フリーランス(ラクテーション、性教育など) |
| 4 | ブログ・SNS・コンテンツ発信でのキャリア活用 |
7|転職を考えるなら「3年目以降」が現実的
業界の相場として、看護職の転職は3年目以降が選択肢が広がるタイミングと言われています。
| 経験年数 | 転職市場での評価 |
|---|---|
| 1〜2年目 | 「経験不足」と見られやすい。第二新卒扱いになることも |
| 3年目以降 | 基礎ができていると評価され、選考が通りやすい |
| 5年目以降 | 専門性・指導力が求められ、ポジションが広がる |
ただし、これは「3年経つまで動くな」ではなく、情報収集や転職エージェント登録は早めに始めておくのが鉄則。市場の動きや自分の市場価値を知っておくと、いざ動くときに後悔しません。
助産師2年目です。今すぐ動くのはまだ早いでしょうか?
「動く=今すぐ転職」ではなくて、「情報を集める・選択肢を知る」のは早いほどいいと思います。私が助産師から看護師に転職したときは、病院のHPから自分でエントリーして1病院で内定をもらいました。事前に自分の経験を棚卸しして、転職の目的を明確にしておいたのが大きかったと思います。ちなみに産業保健師への転職は30社以上エントリーしたので、転職先の業界によって難易度はかなり違いますよ。
まとめ:助産師を辞めることは「後退」じゃない
私が助産師からキャリアを変えた理由を整理すると、こうなります。
- 全身状態を幅広く見られる看護師になりたかった
- 看護師経験のなさが転職活動で実際にネックになった
- 求人の選択肢が産科に集中しており、キャリアの幅が限られていた
- 産科の閉じた環境より、もっと多様な経験を積みたかった
- 年収より「自分の成長と選択肢の広さ」を優先したかった
これはあくまで私の経験であり、産科でキャリアを積み続けることが正解という方もたくさんいます。大切なのは、「助産師として生きていくのか、それ以外の道も見ていくのか」を早い段階で自分なりに決めること。
悩んでいる方の「よりみち」の参考に、少しでもなれれば嬉しいです。
【出典・参考文献】
本記事の数値データは、以下の公的統計および公開資料に基づいています(最終閲覧日:2026年4月28日)。
- 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(令和7年7月29日公表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/24/index.html
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和6年12月分及び令和6年分)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_49776.html
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
- 日本看護協会「産科混合病棟ユニットマネジメントガイド」 https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/guideline/sankakongo.pdf
- 厚生労働省「保健師助産師看護師法」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000203
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